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東京高等裁判所 昭和36年(ラ)37号 決定

抗告人 奥田定松

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取り消し、本件仮処分決定申請趣旨とおりの裁判を求める」趣旨を申立て、抗告理由として末尾添付の抗告理由書記載のとおり主張した。

抗告人がなした本件仮処分申請の理由は明確を缺くけれども、本件記録編綴の仮処分申請書(記録第一丁)から推測すれば、本件仮処分債務者である須賀ふさ外七名は抗告人所有の原決定末尾添付目録記載の土地を権原なくして占有しながら、却て抗告人に対して仮処分を申請し、浦和地方裁判所昭和三十五年(ヨ)第二四一号事件をもつて、抗告人の本件土地に対する処分禁止及び立入禁止の仮処分決定を得た。そして本件土地の一部に砂利を敷いて整地したうえ、営業用駐車場として使用し本件土地の現状を変更しているから、これを防止するため右須賀ふさ外七名に対し本件土地えの立入禁止等の仮処分決定を求めるという趣旨にあることが認められる。また抗告人提出の仮処分決定謄本(記録第六九丁)によると、抗告人は前に前記須賀ふさ外七名を被申請人とする浦和地方裁判所昭和三十五年(ヨ)第二四四号不動産仮処分申請事件において、同年十一月十二日に「本件土地に対する被申請人等の申請を解いて、申請人の委任した浦和地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は現状を変更しないことを条件として、被申請人等に右不動産の使用を許さなければならない。被申請人等は右不動産の占有を他に移転し、又は占有名義を変更してはならない」旨の仮処分決定を得て、右仮処分を執行していることもこれを認めることができる。

本件土地が火災による焼跡地であることは抗告人の自ら主張する事実であつて、前掲仮処分決定においても、被申請人須賀ふさ外七名が本件土地を使用する方法については、現状を変更しないことを条件としてとの制限を受けているのみであるから、同人等が本件土地の一部に砂利を敷いて整地しこれを営業用駐車場として使用しているとしても、本件土地に建物を建設する等の行為がなされることがなければ、将来における土地の明渡の執行を不能又は著しく困難にするものではないから、まだ、本件土地の現状を変更したものということはできないし、他に右須賀ふさ外七名が本件土地の現状を変更した事実についての主張疏明はない。

また本件記録によれば、原裁判所は抗告人に対し保証として金二十万円を供託すべきことを決定し、抗告人がこれを供託していることが認められる。しかしながら、右保証決定は、抗告人主張のように、仮処分決定の内容をなすものではなく、その供託後であつても、また、仮処分申請事件の審理の過程で和解の過程でどんな交渉があつたとしても、その一事で直ちに裁判所は仮処分申請を許すべからざるものと決定することもできないのではないから、原裁判所が、抗告人に対し保証決定をなしながら、また和解の勧告をなした後に、本件仮処分申請を却下したとしても、これをもつて原決定を違法とすることはできない。

してみれば、本件仮処分申請はその必要性を缺くものとしてこれを却下した原決定には、その他の点を判断するまでもなくなんの違法もなく、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人をして負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

抗告理由書

一、抗告人は相手方等に対する浦和地方裁判所昭和三五年(ヨ)第二四四号仮処分命令事件(相手方会社を除く)に依り、原決定に表示されている如く、所謂執行吏の占有保管現状不変更を条件に相手方に使用を許す旨の決定を得て、執行中であることは事実である。

二、相手方等(会社を除く)が抗告人に対し、浦和地方裁判所昭和三五年(ヨ)第二四一号を以つて、本件土地の処分禁止、立入禁止の各仮処分命令を得た。右の命令は要するに相手方等は申請外岡田徳輔より本件宅地上の建物を賃借し、或いは建物の譲渡を受けたことにより、その敷地の借地権の譲渡を受けてその同意を得て本件宅地を占有する内、昭和三十五年三月三日地上建物が焼失したことを理由に、本件宅地の占有権は相手方(会社を除く)にあること及び本件宅地上の建物は未登記建物であることに因り、本件宅地を第三者に譲渡されては新所有者に対抗し得べき要件を備えていないことにより、右の仮処分命令を得たものである。

三、そこで、抗告人である申請人は、次の如き事情が存したのでこれが決定に対する異議の申立と第一項の仮処分命令を申請した。

即ち相手方等は昭和三十五年三月三日本件宅地上の建物が焼失してからは頻りに借地申入をなし来つていたところ、相手方須賀文雄は相手方等を代表して、焼失地たる本件宅地の内約三十坪位を借受けたき旨の申出をなし来り、三月下旬数回の交渉の結果条件に一致をみて、所謂権利金の支払方法を協議するの段に至るや、相手方文雄は四月初頃矢庭に本件宅地の東南部三十坪を測量し果ては地鎮祭を執行したので、執行吏保管とすることの仮処分命令を得て執行した。(浦和地方昭和三五年(ヨ)第五九号事件)但し、地鎮祭の執行は土曜日であつたことにより或いは工事に着手されるのではないかとの思案により甚大なる緊急事態であつた。

四、その後、相手方等は浦和地方裁判所昭和三五年(ワ)第八九号借地権存在確認訴訟を提起するに至つたが、前項の抗告人からの仮処分命令と右本訴の担当判事が同一人であることから、和解が勧告され、昭和三十五年十一月まで和解が継続した。当時は相手方等の代理人は戸倉嘉一弁護士であり、焼失は抗告人が管理占有しており、相手方等より何等の異議の申出もなく至つたものである。

しかるに、相手方等は抗告人に対し、昭和三十五年十一月 日立入禁止、処分禁止の仮処分命令を得たが手続自体は格別に

(イ) 相手方は抗告人の本件宅地への出入場所にドラム罐を林立させ実力をもつて通行を妨害し、以つて立入禁止の仮処分命令を得たこと

(ロ) 立入禁止仮処分決定は同年十二月 日に発令されたのに拘らず、十二月七日に疎明写真の様に立札を立てたこと

等は実力をもつて抗告人の本件宅地に対する占有を侵奪したものである。

(ハ) 更には、立入禁止仮処分命令が出るや相手方会社は所謂本件宅地を駐車場とし、営業用自動車数台を駐車させていること

(ニ) 本件仮処分事件は審尋することとなり相手方等に通知したが審尋期日に相手方等は出頭せず、担当判事は仮処分決定をなすこととし、抗告人はその決定に基いて、昭和三十五年十二月九日金弐拾万円を供託した。

(ホ) 昭和三十五年十一月三十日は相手方等より抗告人からの仮処分命令に対する相手方等の異議事件の弁論期日とされたが、その期日に、いづれも債務者からの異議の申立は取下げ、十一月三十日現在係属する仮処分事件の決定に服することを双方代理人並びに裁判所の間に黙約が出来た。

(ヘ) 然しながら十二月二十三日裁判所より再審訊の期日が指定されて、当日、本件と先に現状不変更仮処分命令事件(三五(ヨ)二四四号)を本件仮処分命令の発令と同時に取下げることになつた。

蓋し、本件仮処分命令発令前に取下げて現状を変更されては本件の発令も無意味に帰する場合が予想されたからである。

五、以上の経緯が記録上明示されてはいないが、一月に至つて突如本決定がなされたものである。

しかも、決定の判断中には、先に仮処分命令が出ているのであるから執行吏に違反事実を確認させて、授権決定を得る方法等により保全すべしと云うも、柳川判事著保全訴訟に説明されている如く、執行命令を発するかわりに第二次の仮処分命令を発することは、実務上からみて、より迅速的であり、事案に即した処分を定め得るも、又保証も立てることが出来る(同著七〇七、三六七頁)

六、斯様な事案である限り、しかも保証金をも積立てさせているものであれば、却下すること自体保証を立てさせることも決定の内容であるから、決定を却下することに該る違法のものと云わねばならない。

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